映像が浮かぶような爽快感

この冬休みに前から読みたかった東野圭吾さんの新作「疾風ロンド」を読みました。なんか覚えのある登場人物だなと思ったら「白銀ジャック」の続編なのですね。2冊ともある目的のために、同じスキー場にテロを仕掛けられる話です。それを知った関係者たちの右往左往が緻密に描かれています。東野作品が面白いのはこの人間観察力。組織の本音と建前を焙り出してる部分ですね。その意味では、原発テロを描いた「天空の蜂」も読み応えがありますよ。

話は戻って「疾風ロンド」のこと。物語はあるバイオ研究所を解雇された元従業員Xが、バイオテロを仕掛ける場面から始まります。高度の知識と技術を持った元従業員。殺傷能力の高いある薬品をスキー場の雪中に埋め、気温がある程度上昇したら(春になり雪が溶け出したら)辺り一面に毒薬が飛散するというもの。

慌てふためくバイオ研究所の責任者たち。周囲に知られまい、問題を大きくしまいと、内密に隠し場所を探るのだけど、元従業員の上司はスキーが上手ではなく、パトロールや救急隊に咎められる羽目に。結局、パトロール隊の根津やその友人でスノーボーダー選手の千晶まで巻き込んで総力戦に突入します。とにかく東野作品は人間模様の描かれ方が上手いのと、スキーは学生時代からずっとやってなく元々上手くもない私にも、雪斜面を滑る爽快感が伝わってくるのはすごいです。近く映像化されそうな小説ですね。

不当解雇は時にはテロを引き起こすこともある

それはそうと。この物語もそもそもは、元従業員X不当解雇されたことが原動となり引き起こされています。元従業員Xの上司は、元従業員Xが非認可の役員を秘密裏に開発してるのを知りつつ(というか上司が開発させていた?)黙認し、問題が起きると一方的に元従業員Xを解雇しました。その怒りが自社で開発した薬品を盗み出し、テロをしかけ、るという行為に向かったのです。

当事務所が、(従業員の)悪意を裁くことが前提の労務管理でなく、(労使関係の)問題が起きないよう善意を促す労務管理をオススメする理由はそこにあります。悪意が元で問題が起きたときのリスクヘッジを張り巡らすのは対処療法に過ぎない、でもスタッフと濃い信頼関係を作り上げ、会社のため或いは経営者である貴方のために真摯に働いてくれるなら、スタッフを尊重し大切に育てるための経費は決して無駄ではありません。スタッフは血と心の通った人間であり、決してモノではないのです。

これは小説ですが、実際にも、契約を打ち切られた元派遣社員がナイフを振り回して無差別殺人を実行したりといった事件も起きています。その解雇や契約打ち切りに関係のない他人を巻き込む行為は許し難く、もしもその原動となった事象が御社にあったとすれば、少なくともいい気持ちはしないでしょう。御社の社名がマスコミで流れてしまう可能性もあります。

テロは本当に不幸な極端な例ですが、不当解雇や賃金未払い、契約打ち切りの不当を訴える元従業員に訴訟を起こされたりといったことは世の中で普通に起きています。解雇や契約を終了させる際はどうか慎重に、充分な話し合い等された上で行いましょう。最後は真面目な話になってしまいました。解雇や契約終了を実行する前の注意点等、ご相談も承ります。

東野圭吾「疾風ロンド」に思う ~不当解雇が引き起こした重大事故~